* この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

スイソウノ脳≒ (1).png
LOGO Experiments Art Music.jpg
chapter1 ~ Distorted 歪 ~
page 09

同時刻、イスラエルのホテルのラウンジで一人の男がバーテンにコーヒーの注文をした。バーテンは無言で頷くとエスプレッソマシンを操作して真っ白な磁器のデミタスカップに注いでいた。男は痩せていて長身でも無かったが、日々の努力を惜しまず鍛えられた体に、少し窮屈そうだが質のよさそうなジャケットを着て居た。

 

男が座っているカウンターに淹れたてのエスプレッソコーヒーが静かに差し出される。カウンターに置かれていたシュガーポットを引き寄せ、スプーンで二杯白く透き通った砂糖の結晶を入れ、エスプレッソコーヒーの上面に浮かぶ、薄いオレンジ色の泡の浮力と戦う様子を眺める。

グアテマラの豆がゆっくり加熱され、生み出されたメイラード反応の香りを楽しむように口に含んだ時、ポケットの携帯電話が振動した。

カップをカウンターに置き、ポケットを探り携帯電話を取り出し応答ボタンをタップして耳に当てる。

男は何も喋ることなく通話終了のボタンをタップして、携帯電話をポケットに戻し、カウンターにカップと代金分の硬化を置くと、足早にロビーへと向かい正面入口から外に抜ける。

 

ホテルから西の方角にサンピエトロ大聖堂の半球状のドームが見えていた。

しばらく歩きサンピエトロ大聖堂の広場に付くと、そこに聳える様に立っているオベリスクを背にして電子タバコを取り出そうと胸のポケットに手を居れた時、現地警官に取り囲まれた。通常勤務の警官ではなく、特殊任務に対応するための警官隊だった。

男は、何かの間違いだと証明しようとして、胸ポケットの電子タバコを見せようと取り出した瞬間射殺された。

 

キリトは『スイソウノ脳≒』から現実世界へと戻り、父親が帰宅する前に頼まれていた夕食を、オンライン・ミールデリバリーに注文をした。
ミールデリバリーはとても便利にできていて、IOTにより普段の生活から吸い上げられたデーターを元に、ユーザの嗜好に合わせた料理を提供してくれる。


今日はイタリアンが候補として一番上に表示されていた。確かにキリトの気分はそうだったのが、父の好みに合わせ中華をオーダーする。父と夕食のテーブルで向かい合って話をしたい気分だった。


デリバリーが届くのを待つ間、リビングでテレビを付けるとちょうど夕方のニュース番組が放送されていた。
国内での出来事がいつものように流され、次に国際情勢のテーマになった。
国際情勢のTOPには『サンピエトロ広場テロ未遂事件』と大きくテロップに表示され、現地の中継が映っていた。

キリトの鼓動が大きく振動する。

 「サンピエトロ広場でテロ未遂!?」


テロ容疑の男はサンピエトロ広場で最も人の集まる場所に、高濃度に濃縮されたウラン235を使用したマイクロ爆弾を使い、テロを仕掛けようとしていた所を、AI搭載型監視装置により発見されテロが未然に防がれたという事だった。

男はポケットから電子煙草に似せたマイクロ爆弾を取り出した時、現場に駆けつけた警官隊によって射殺された。
キリトは『スイソウノ脳≒』での出来事がフラッシュバックしてテレビの映像と重なった時、画面に映し出されたテロ容疑の男の顔写真を見て驚愕した。

あまりの衝撃で、胃から熱いものが逆流してくるのを覚えたが、意識を脳細胞に集中した。携帯電話を探すようにリビングのテーブルの上に視線を滑らせたが、自分の部屋で充電器に繋がれているのを思い出し、慌てて取りに行く。

 「リリス!」

リリスの応答は無く、画面に表示されるのはメンテナンス中のメッセージだった。

 【ただいまメンテナンス中です。ご不便をおかけしますが暫くお待ちください。】


こんな時になぜ…

 

 

Chapter1 END