chapter2 ~Siren 魅惑の歌声~
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スイソウノ脳 ≒ 
 

chapter2 ~Siren 魅惑の歌声~

『キリト、もう朝よ、起きなさい』

 

『うん… もうちょっとだけ…』

 

『しょうのない子ね、今朝はシナモンのフレンチトーストを作ってあげたわよ…』

 

『母さんのフレンチトースト…』

 

ベッド脇の窓から降り注ぐ、朝の優しい光がキリトの頬をそっとなでた。それは優しい母の手のぬくもりの様に感じた。

 

目を覚ますとまだ母の面影がキリトを包んで居た。

 

「夢か…」

 

キリトは少しがっかりしたが、なぜか幸福感にも似た感覚を感じていた。

母親は死んで居なくなってしまったが、いつも側に居るような感じがしていた。

 

「そうだ、リリスは…」

 

急いでベッドから起き上がると、机の上で充電器に繋がれた携帯電話を掴み上げ電源ボタンを押しリリスに呼びかける。

画面には『メンテナンス終了まで約1時間掛かります』とポップアップウィンドウが浮かび上がり、しばらくして消えた。

 

キリトは軽くため息をつくと窓際に行きカーテンを開けた。優しい日差しがキリトを包み込む。

昨晩ほどの不安と緊張は感じなくなっていたが、あの出来事がまた脳細胞を占有して来るのを逸らす為に、明るい世界を全身で感じる事で昨日の出来事が夢のように感じられた。

 

しばらくは忘れて居られそうだと自分に言い聞かせ、クローゼットの扉を開いた。最初に目に留まった薄いブルーのシャツといつも履いているジーンズを手に取り手早く着替えを済ませると、キッチンへ歩いていった。

 

キッチンの扉を開けると父親のトオルが慌ただしくしていた。

 

「あ、おはようキリト」

 

「おはよう…」

 

トオルはキリトの顔を見て笑みを浮かべると、キリトの背後の壁に掛けてある時計が目に入り素顔に戻って言った。

 

「父さんもう出かけなきゃならないんだ。朝ごはんは用意しておいたから、飲み物は自分で用意して食べてくれ。」

 

「うん、わかった。今日も仕事なの?」

 

「緊急の会議が入ってしまってな… 今日は早く帰れるかもしれないと思う。じゃあ行ってくる。」

 

「うん… 行ってらっしゃい。」

 

父が出て行くと家の中の空気が少し冷たくなった気がした、ドアから入ってきた外気のせいもあるが、父親の温もりが出て行ったせいかもしれない。

冷蔵庫から取り出しグラスに注いで一口飲むと食欲中枢が刺激を受け、イドの欲求を満たすためにテーブルの上に置かれた皿に手を伸ばした。皿の上には焼きたてのフレンチトーストが乗っていた。

 

そのフレンチトーストにはシナモンシュガーがかけられていて、とても良い香りがした。

 

「父さんが作ってくれてたんだ…」

 

キリトは母が作ってくれるフレンチトーストが大好きだった。父はそれにシナモンシュガーをかけて食べるのが好みだったので、幼かった頃のキリトも父の真似をしてシナモンシュガーをたっぷりかけて食べていた。

 

* この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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